正しい金銭感覚を身に付けてもらおうと、子供への金銭教育が広がっている。最近では、電子マネーなど「目に見えないお金」について教えるプログラムに注目が集まっている。子供たちが「目に見えないお金」によってトラブルに巻き込まれるケースも増えており、専門家は「子供への金銭教育の必要性はさらに高まっている」と指摘している。
魔法のカード
7月下旬、大阪市浪速区の市立難波市民学習センター。夏休みの親子イベント「今、親子で知っておきたいお金のはなし」が開かれた。幼稚園児から小学校低学年の子供たちが親と一緒にお金について学ぶ企画だ。
講師を務めたファイナンシャルプランナーの草野麻里さんがお金の役割や大切さなどを話した後、「こんなカード見たことある?」と、会場に問い掛けた。見せたのは、数枚のICカードが描かれたイラスト。「知ってるー」「ぼく、持ってるよ。電車に乗るときに使うやつ」と返事をする子供たちに、草野さんは「これもちゃんとしたお金なんだよ。だから、大切に使おうね」。子供たちは小さくうなずいた。
イベントを主催したのは、ファイナンシャルプランナーらでつくる「キッズ・マネー・ステーション」(東京都杉並区)。全国で子供たちにお金について学ぶ場を提供している。代表の八木陽子さんは「今は現金を引き出すのも買い物するのもカード。子供たちは『魔法のカード』でさまざまな物が買え、好きなだけお金がもらえると思ってしまう。利便性の進む社会に教育が追いついていないのが現状です」と話す。
実際、通学などでICカードを持つようになった子供がうっかり紛失してしまっても全く慌てない、といった声もよく耳にするという。「電子マネーを使うようになる前に、お金とはどういうものか、基本的な役割や性質をきちんと教える必要があります」
高額な請求書
「目に見えないお金」はICカードだけにとどまらない。ネットショッピングやスマートフォン(高機能携帯電話)用のアプリ(応用ソフト)をダウンロードするなどの際のオンライン決済システム。これらを利用して簡単に買い物し、思わぬトラブルに巻き込まれるケースも相次いでいる。
兵庫県情報セキュリティサポーターの篠原嘉一さんによると、親の知らないうちに子供がインターネットのショッピングサイトで親のIDを使って高額の買い物をしたり、親のスマホを使って有料ゲームをダウンロードしたりして高額な請求書が送られてくる、といった事例が多く発生している。
ネット上では、クレジットカードの番号だけで買い物ができるため、友人から親のクレジットカード番号を無理やり聞き出し、ネットで買い物をするという悪質なケースも発生しているという。
篠原さんは「子供が親に物をねだっているうちはまだ安心といえます。健全な金銭感覚を養うことはもちろん、日頃から親子の会話を大事にすることを心掛けてほしい」と話している。
■オンラインゲームの決済トラブルが低年齢化
「子供が無断でオンラインゲームでお金を使った」といった、スマートフォンなどのオンラインゲームをめぐる決済トラブルの低年齢化が進んでいる。国民生活センターによると、今年度(8月28日現在)に同センターへ寄せられた19歳以下の相談件数は743件で、前年同期比で31件減少している。しかし、9歳以下で見てみると、前年同期比で99件も増加している。
相談内容としては、「7歳女児が親のスマホでゲームを行い、有料アイテムを購入し、クレジットカード会社から8万円の請求があった」「6歳女児が親のタブレット端末のオンラインゲームで有料のアイテムを購入し、14万円の決済確認メールが届いた」といったものが寄せられている。中には2歳児が画面を触るうちに決済した例もあったという。
無料のゲームでも、有料のアイテムを購入することで遊べる範囲が広がるといった課金型のものが多い。未就学児の場合、購入したという意識がないままオンラインで買い物をしていることがほとんどだという。同センターは「クレジットカード情報を登録している端末には、安易に購入画面に進めないようにするパスワードロックをかけるなど細心の注意を払ってほしい」と呼び掛けている。